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2026年9月29日 更新
工場や倉庫を建てる、あるいは設備投資を行う際に金融機関から融資を受け、その担保として不動産に抵当権を設定しているケースは多くあります。「抵当権が付いたままでは売却できないのでは」と不安に思う方もいらっしゃいますが、結論から言うと、抵当権付きの工場・倉庫でも売却は可能です。本記事では、抵当権の基本的な仕組みから、売却時に抵当権を抹消するまでの具体的な流れ、費用の目安、注意点までを、できるだけ分かりやすく解説します。金融機関との調整に不安がある方も、全体の流れを把握しておくことで落ち着いて準備を進められるはずです。なお、そもそも売却と賃貸のどちらが良いか迷っている方は、工場・倉庫の「売却」と「賃貸」、どちらが得か徹底比較もあわせてご参照ください。
抵当権とは、金融機関などが融資を行う際に、借入金の返済が滞った場合に備えて不動産を担保に設定する権利のことです。工場や倉庫を建築する際の設備資金・不動産取得資金の融資はもちろん、事業性の運転資金の担保として不動産を差し入れているケースもあります。抵当権が設定されている不動産は、登記簿(登記事項証明書)の「乙区」という欄に、抵当権者(金融機関等)や債権額とともに記載されます。抵当権が付いていること自体は、所有者が自由に物件を使用・収益・処分することを妨げるものではありませんが、売却して所有権を買主に移転する際には、原則として抵当権を抹消しておく必要があります。抵当権が残ったままの不動産を買いたいという買主は基本的にいないため、実務上は決済(引き渡し)までに抹消するのが通常の流れです。
抵当権が設定されたままでも、法律上、不動産の売買契約を結ぶこと自体は可能です。実務でよく行われるのは、売却代金の中から残っている借入金を一括返済し、その返済と同時に抵当権抹消登記を行うという方法です。これを「同時決済」と呼びます。つまり、売主は物件の引き渡しと同時に得た売却代金の一部を使って金融機関へ残債を返済し、司法書士が抵当権抹消登記と買主への所有権移転登記を同じ日にまとめて申請する、という流れになります。売主が事前に自己資金で完済してから売りに出す必要は必ずしもなく、売却のタイミングに合わせて処理できるのが実務上のポイントです。ただし、抵当権抹消の手続きには金融機関側の協力や書類の準備が必要になるため、余裕を持ったスケジュールで進めることが大切です。
一般的な流れは次の通りです。まず、売却を検討し始めた段階で、金融機関に対して残債務の額(残債)を確認します。売却代金でどの程度まかなえるかを把握しておくことで、その後の資金計画が立てやすくなります。次に、買主が決まり売買契約を締結した段階で、決済(引き渡し)の日程を金融機関とも共有し、抵当権抹消に必要な書類の準備を依頼します。金融機関からは、抵当権解除証書、登記済証(または登記識別情報)、委任状といった抹消に必要な書類が交付されます。そして決済当日、買主から売却代金が支払われるのと同時に、その一部で残債を一括返済し、司法書士が抵当権抹消登記と所有権移転登記をまとめて法務局に申請します。この一連の流れを不動産会社・金融機関・司法書士が連携して進めるのが一般的です。個人で全てを調整するのは負担が大きいため、経験のある不動産会社や司法書士に間に入ってもらうと安心です。特に、金融機関によっては抵当権解除に必要な書類の発行に一定の日数がかかることもあるため、決済日が決まった時点で早めに依頼しておくことをおすすめします。また、売却先が決まる前の段階でも、金融機関に「売却を検討している」旨を一度伝えておくと、その後の書類準備や残債務の確認がスムーズに進みやすくなります。
売却代金よりも残っている借入金の方が多い状態を、いわゆる「オーバーローン」と呼びます。この場合、売却代金だけでは完済できないため、不足分を自己資金で補填するか、金融機関と協議のうえで対応を検討する必要があります。自己資金での補填が難しい場合は、金融機関に相談し、任意売却という形での対応を検討することになります。ただし、任意売却は金融機関との交渉が前提となり、通常の売却のように簡単に進むものではありません。一般的に、任意売却は返済が既に滞っている(延滞している)状況で用いられることが多く、その場合は信用情報機関に事故情報として登録される、いわゆる「ブラックリスト」に該当する状態を伴うのが一般的です。安易に「オーバーローンなら任意売却すればよい」と考えるのではなく、できる限り早い段階で金融機関に相談し、自己資金での補填を含めた選択肢を検討することが望ましいでしょう。オーバーローンの可能性がある場合は、早い段階で金融機関に相談し、売却代金の見込みと残債の状況をすり合わせておくことが重要です。売却活動を始めてから資金が足りないことが判明すると、スケジュールが大きく崩れてしまうため、事前の確認を怠らないようにしましょう。
「任意売却」という言葉から、抵当権付き物件の売却は特殊な手続きが必要だと身構えてしまう方もいますが、残債務が売却額の範囲内でまかなえる見込みがあるのであれば、通常の売却(同時決済による抵当権抹消)で完結し、任意売却は必要ありません。一方で任意売却は、売却代金だけでは残債務を完済できない(オーバーローン)場合や、既に返済が滞ってしまっている場合に用いられる方法で、金融機関との交渉が前提となるため、通常の売却に比べてハードルが高く、時間もかかる手続きです。また、任意売却に至る背景には返済の延滞が伴うことが多く、信用情報への影響(いわゆるブラックリスト)を伴うケースが一般的である点も理解しておく必要があります。「任意売却なら柔軟に対応してもらえる」と気軽に考えず、まずは残債務の額と想定される売却額のおおよその見込みを比較し、通常の売却で完結できそうかを早い段階で確認しておくことが重要です。
抵当権抹消登記には、登録免許税と司法書士への報酬が必要になります。登録免許税は不動産1個につき1,000円と法律で定められています。土地と建物でそれぞれ1個と数えるため、工場や倉庫のように土地と建物が別々に登記されている場合は、合計2,000円程度が目安です(敷地が複数の地番にまたがる場合はその数に応じて加算されます)。司法書士への報酬は事務所によって幅がありますが、抵当権抹消のみであれば数千円から2万円程度が一般的な相場です。実際には、所有権移転登記など他の手続きとあわせて依頼することが多く、まとめて見積もりを取ると良いでしょう。正確な費用は物件の状況や依頼する司法書士によって変わるため、事前に見積もりを確認しておくことをおすすめします。実際の抵当権抹消登記申請書の様式は、法務局が公開している申請書のひな形(PDF)で確認できます。
事業性の融資では、特定の借入金ではなく、一定の限度額(極度額)の範囲内で発生する複数の債務をまとめて担保する「根抵当権」が設定されているケースもあります。根抵当権の場合も、基本的な抹消の流れは通常の抵当権と大きくは変わりませんが、売却にあたっては「元本の確定」という手続きが必要になる場合があります。根抵当権は継続的な取引を前提とした権利のため、抹消する前に担保する債務の元本を確定させ、金融機関との間で清算内容を確認する必要があるのです。根抵当権が設定されている場合は、通常の抵当権よりも手続きがやや複雑になることがあるため、早めに金融機関や司法書士に相談し、必要な手続きと期間を確認しておくことをおすすめします。なお、根抵当権が複数の物件をまとめて担保している「共同根抵当」のケースでは、売却対象の物件だけを切り離して抹消できるかどうかも金融機関との調整事項になります。工場と倉庫、複数の土地をまとめて担保に入れている場合など、権利関係が複雑になりやすいため、該当する可能性がある場合は特に早めの相談をおすすめします。
抵当権付きの物件を、仲介を通じて個人や一般の事業会社に売却しようとすると、買主側が抵当権抹消の手続きに不慣れで、交渉や契約が長引いてしまうことがあります。買主にとっては「本当に決済日までにきちんと抹消されるのか」という点が不安材料になりやすく、住宅ローンや事業融資の審査と抵当権抹消のタイミング調整が絡むと、スケジュールが読みにくくなることも少なくありません。一方、工場・倉庫の買取を専門に行う業者であれば、抵当権付き物件の取引に慣れているケースが多く、金融機関とのやり取りや司法書士の手配も含めて、比較的スムーズに進めやすい傾向があります。スピードと確実性を重視する場合は、抵当権の抹消手続きも含めて相談できる買取専門の業者を選ぶことも、有力な選択肢の一つです。ただし、買取は業者が再販や活用を前提に価格を提示する分、一般的に仲介で市場に公開して売却するより価格が安くなる傾向がある点には注意が必要です。抵当権の処理のしやすさだけでなく、少しでも高く売りたいという希望がある場合は、買取だけで即決せず、仲介も含めて比較検討することをおすすめします。
🏭 よくあるご相談パターン
売却を決めてから、抵当権の存在に気づいたケース
機械買取を専門とする当社のグループにも、工場を廃業し不動産を売却したいというご相談の中で、物件を精査するために登記簿謄本を取得したところ、抵当権が残っていることが分かり、そのままでは売却を進められなかったというケースがありました。完済したはずと思い込んでいた、あるいは古い借入の抹消手続きがそのままになっていたなど理由はさまざまですが、共通しているのは「売却を決めてから初めて気づいた」という点です。こうした事態を避けるためにも、売却を検討し始めた段階で早めに登記簿謄本を取得し、抵当権の有無や残債務の状況を確認しておくことをおすすめします。

抵当権付きの物件を売却する際は、通常の売却時に必要な書類に加えて、いくつか準備しておくとスムーズなものがあります。まず、金融機関との金銭消費貸借契約書(借入時の契約書)です。借入残高や返済条件を確認する際の基本情報になります。次に、直近の返済予定表(残高証明書)です。金融機関に依頼すれば発行してもらえることが多く、現時点での正確な残債務額を把握するために必要です。また、登記簿謄本(登記事項証明書)を法務局またはオンラインで取得し、現在どのような抵当権・根抵当権が設定されているかを確認しておきましょう。複数の借入を行っている場合、古い抵当権が抹消されずに登記簿上残ったままになっているケースもあるため、事前の確認が重要です。固定資産税の課税明細書や公図、建物の図面なども、買主側の検討材料として求められることが多いため、手元に揃えておくと手続きがスムーズです。
Q. 抵当権が付いたままで売りに出すことはできますか?
はい、売却活動自体は抵当権が付いたままの状態で始めることができます。実際に買主が決まり、決済を行うタイミングまでに抹消できれば問題ありません。ただし、事前に残債務の額を把握しておくことは重要です。
Q. 抵当権抹消の手続きは自分で行う必要がありますか?
通常は司法書士が金融機関・買主側の司法書士と連携して手続きを代行します。売主自身が法務局に出向いて手続きする必要は基本的にありません。必要書類への押印や本人確認などの対応は必要になります。
Q. 根抵当権と抵当権、どちらが設定されているか分からない場合は?
登記簿謄本(登記事項証明書)を取得すれば確認できます。法務局の窓口のほか、オンラインでも取得可能です。不明な場合は、借入先の金融機関に確認することもできます。
Q. 複数の金融機関から借入がある場合はどうなりますか?
複数の抵当権が設定されている場合、それぞれの金融機関との調整が必要になり、通常より手続きに時間がかかる傾向があります。早めに全ての借入先に連絡し、残債務の状況を確認しておくことをおすすめします。
Q. 抵当権抹消の手続き中に金融機関の担当者が変わってしまった場合は?
担当者が変わっても、金融機関側で情報は引き継がれているのが通常です。念のため、書類のやり取りをする際は、担当部署(債権管理部門など)に直接確認しておくと安心です。
実際の決済日には、売主・買主・司法書士(場合によっては双方の司法書士)・金融機関の担当者が同じ場に集まる、あるいは書類のやり取りで進行するのが一般的です。まず、司法書士が登記に必要な書類一式(売主の印鑑証明書、登記済証または登記識別情報、抵当権解除証書など)が揃っているかを確認します。書類に不備がないことが確認できたら、買主から売主へ売却代金が振り込まれます。この入金が確認できた時点で、売主はその場で金融機関への残債務の返済手続きを行い、金融機関から正式な抵当権解除の意思表示(抵当権解除証書の交付など)を受けます。そのうえで、司法書士が法務局へ抵当権抹消登記と所有権移転登記をまとめて申請します。登記が完了するまでには数日から1週間程度かかるのが一般的ですが、申請自体は決済当日に行われるため、この日をもって実質的な取引は完了したことになります。全体として、書類の準備さえ整っていれば、決済自体は1〜2時間程度で終わることが多いです。
抵当権付き物件の売却相談をする際は、あらかじめ以下の情報を整理しておくと、その後のやり取りがスムーズになります。借入をしている金融機関名と、おおよその残債務額、物件の所在地と面積、建物の築年数、そして売却を検討し始めた理由やスケジュール感です。正確な金額が分からない段階でも構いませんので、分かる範囲の情報を伝えていただければ、提携業者側で必要な確認事項を整理しながら進めることができます。
抵当権抹消の費用として登録免許税や司法書士報酬に目が向きがちですが、見落とされやすい費用が他に2つあります。1つ目は、金融機関への繰上返済手数料(一括返済違約金)です。融資の契約内容によっては、返済期日より前に一括返済(繰上返済)を行う際、数十万円から数百万円程度の繰上返済手数料が発生することがあります。売却代金と残債務がぎりぎりの水準である場合、この手数料の分だけ手元に残る資金が想定より少なくなる可能性があるため、契約書を確認するか、金融機関に事前に問い合わせておくことをおすすめします。2つ目は、譲渡所得税です。売却代金でローンを完済できたとしても、それとは別に、取得時より高く売れた場合や減価償却が進んでいる場合は、売却益に対して譲渡所得税等の税負担が発生することがあります。「ローンが完済できるかどうか」と「税引き後に手元にいくら残るか」は別の問題であるため、残債務の確認とあわせて、税金面のシミュレーションも顧問税理士に相談しておくことをおすすめします。
売却ではなく賃貸を検討している場合、抵当権が付いたままでも物件を貸し出すこと自体は可能です。抵当権は、あくまで返済が滞った際に金融機関が担保不動産から優先的に回収できる権利であり、所有者が物件を使用・収益することを制限するものではないためです。ただし、金融機関との融資契約の内容によっては、第三者への賃貸について事前の承諾や通知を求められる場合があります。特に、工場財団や企業担保権が設定されているような大口の設備融資では、契約書に賃貸に関する条項が含まれていることもあるため、契約内容を確認しておくと安心です。また、万が一返済が滞り、金融機関が抵当権を実行(競売)した場合、賃借人の権利がどこまで保護されるかは、賃貸借契約を結んだ時期や対抗要件の有無によって変わってきます。抵当権付きの物件を賃貸に出す際は、こうした点も踏まえて、金融機関や専門業者に事前に相談しておくことをおすすめします。
抵当権が付いている工場・倉庫であっても、売却代金による一括返済と同時に抹消登記を行うことで、問題なく売却することができます。重要なのは、早い段階で金融機関に残債を確認し、資金計画を立てておくことです。オーバーローンの可能性がある場合や、根抵当権が設定されている場合は、通常よりも調整に時間がかかることがあるため、余裕を持って準備を進めましょう。抵当権の状況や手続きに不安がある場合も、まずはお気軽にご相談ください。ご相談内容にふさわしい提携業者をご紹介し、具体的な進め方について一緒に整理していきます。借入先の金融機関名やおおよその残債務額が分かる範囲で構いませんので、まずは現状をお聞かせください。